上海の歴史的建造物
上海の風景といえばガラスの高層建築群ですが、20世紀初頭まではヨーロッパ諸国の支配を受けていました。
フランスやイギリス、のちに日本など、当時列強と呼ばれた国々が上海を分割して統治し、そのエリアを租界と呼びます。
今回はその租界エリアに残る建築の現状を紹介しながら、上海における歴史的建造物の位置づけを考えたいと思います。
上の画像は黄浦区にある、上海アールデコと呼ばれる建築群です。
すわニューヨークか、という密度で建っており、ふと神戸を思い出したりもします。
建築は内装もほぼそのままにホテルや銀行、ファッションブランドのテナントとして利用されています。
支配されていた時代の象徴でもある上、スクラップ&ビルドのイメージが強い中国でも歴史的な価値のある建築と認められているようです。
一方で、創意園(そういえん)というタイプの建築が上海には存在します。
古い工場や住居をコンバージョンし、スタジオ付きのオフィスにコンバージョンした建築です。
上海アールデコほど古くもなく建築空間的に優れているわけでもない建築を取り扱っており、普通なら取り壊して新築を
設計してもおかしくないような条件です。しかし、あえてコンバージョンが選ばれるには理由があります。
それは、工業から商業という、上海の産業構造の変化が分かりやすくマーケティング的に有利であることです。
古い建築であることをわかりやすく示すために、画像の創意園では上海の別の解体現場で余った古いレンガをわざわざ買い取り、積みなおしてファサードに利用しています。
歴史的建築のリノベーション・コンバージョンの例は日本でも多数ありますが、そもそも残すべき歴史的価値があるのか、
手を加えるならどうオーセンティシティを維持するのか、といった議論が必ず付いてきます。その議論の末に建築の保存と活用が決定され、設計手法も決まります。
しかし上海で保存される建築というのは、時代背景や建築的価値は根拠にならず、現在の資本主義に有用なものだけが選択されて生き残るようです。
最終的なデザインも単に古さと新しさの対比ではなく、商業的価値を高めるために古さはより古く見えるように手が加えられます。
上海に限らず中国は、まさに魑魅魍魎、ツッコミどころ満載な都市風景が展開されていますが、何かにとって利用価値が
あるものだけが存在を許されています。その意味ではガラスの高層ビルも古い廃工場も上海アールデコもおなじ土俵に立っているといえます。
「商業主義」という視点なら、複雑怪奇な中国を理解しやすくなるかもしれません。