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ほんとにもう、悪いことって続くね!

残業に次ぐ残業。

毎度のごとく深夜、我が自転車流星号を駆って退社の途についていた。

気温、体感で33度。湿度、体感で75%。無風。時刻にして25時。

歯を食いしばり痛風が疑われる崩れかけの右膝をかばいながら体重をかけることで内蔵するからくりが流星号の推進力を発生させる。これに伴う向かい風の清涼だけがかろうじて肉体に意識を、精神をつなぎとめていた。止まれば即死。納得するしないに関わらずそういう季節が今である。どうしようもなく夏なのだ。

不吉な音が聞こえた。

回転する車輪に合わせた規則的な打撃音。軽い。何かが流星号のフレームを叩いている。この間見たジャズドラマーの学生が鬼教官にしごかれる最高な映画のワンシーンがよぎる。

急ブレーキ。深夜営業の薄気味悪い炒飯屋から漏れる冴えない蛍光を浴び、死の予感を押し込めて後輪へと振り向く。

"串"が目に入った。

上海の路上では当たり前の串焼き屋台。串焼きと串は一体であるが、食後には串だけが当然残る。一応串用のゴミ箱として一斗缶が用意されているが、夜も更ける頃には上海万博イギリス館がごとき剣山の様相が常である。

では缶から漏れた串はどこへ行くのか。これも当たり前に路上に打ち捨てられるのだ。もはや見慣れて気にもかけない、はずだった串がこの日この時に限って私を釘付けにしている。

不可思議。串が立っている。立つとは?重力を知らないのか?え?何?何これ?

後輪を貫いている。私を挑発するようにぼんやりした光を受け屹立している。

あ、これあかんやつや。

右手指でつまむ。引き抜く。ププッ!プスススーーー!プリプリー!!

漫画、まるで漫画の音が微かながら響き、即座に流星号は前後の平衡を失う。私の両の足による踏ん張りがなければ完全に転倒。打撲。出血。多量。死亡。

これをパンクと呼ぶ者もいれば、不幸という者もいる。トドめ。ダメ押し。追い打ち。ツイてない。好きに呼ぶといい。

串を観察する。なるほど、先端が長崎のネコの尻尾のようにくの字に変形している。おまけに串焼きの炎、中華の超火力でヤキが入って硬化している。これがアスファルトの凹凸にうまい具合に合致して先端だけが上向き、流星号が踏みつけたというわけだ。

 

つい今しがたまで流星号だった鉄とゴムのからくり仕掛けを押して帰路につく私は考える。

ほんとにもう、悪いことって続くね!